唇から始まる、恋の予感
眩しい光りで目が覚めた。

「カーテンを引くのを忘れていたのね……いたぁ……」

昨日の夜は父親を寝かせた後、私の部屋で綾香と二次会をした。
頭痛は二日酔いによるものだろう。いつもは一缶で終わりにしているのに、特別な日と初めての恋バナにはしゃいで、かなり飲んだ。しかもお風呂に入らず、パジャマにも着替えてない状態でベッドに入っていた。

「いやだ、酷い顔」

メイクも落としていない顔は、本当に悲惨だったけど、なんだか笑ってしまった。
お風呂に入る準備をして、下に降りると、母親が鬼のような顔で私を見た。

「一体何時まで寝てるのよ。それにその顔、30にもなった人がやることじゃないわよ」
「……」

この年になって母親に怒られるのはかなり恥ずかしい。私は母親の小言を背中に受けながら、そそくさとお風呂に入った。

「ふふふ……」

今日これからやること、怒られたこと全てが楽しくて、思い出し笑いをする。

「綾香も起こして早く出かけたほうが良さそうね」

家にいたら母親の小言を一日中聞かされそうだ。寒いけれどシャワーだけにして素早く済ませる。
お風呂を出ると、綾香も起きてきていて、朝ごはんを食べている所だった。

「綾香、昨日お風呂入ったの?」
「入ったよ」
「うそ」
「ほんと。お姉ちゃん、早く食べて支度してよ。予約の時間があるんだから」
「そうだった」

綾香の行く美容院に同じ時間に予約を入れてもらった。昨日はお酒の勢いもあってつい予約をしてしまったけれど、今はとても緊張している。

「智花、美容院に行くの?」

母親は私が美容院に行けないことを知っていから、とても心配そうな顔をしている。

「綾香と一緒に行くの。気分転換をしようかと思って」
「そう……いいんじゃない?」
「お母さん、大丈夫よ」

もう不安にさせないと決めたんだから、明るい私をこれから見せていかなくちゃ。
トーストにコーヒー、ハムエッグとヨーグルトを食べて、支度にとりかかる。
いつものようにファンデーションだけをつけ、色付きのリップを唇に塗った。
隣の綾香の部屋のドアをノックすると、支度を済ませた綾香が顔を出す。

「かわいい」

ベージュのフレアスカートに、オフホワイトのセーターを着て、ボア素材のバッグを持っていた。
綾香に比べ、私は今から会社に行く服装で、思わず自分を上から下へ見てしまった。

「ごめん……」

こんな姉と一緒に並んで歩くのはさぞかし恥ずかしいだろうと、謝る。

「洋服買うんでしょ? いいじゃん別に。これからよ、これから。行くよ?」
「うん」

妹に引っ張られていくのは、姉としてどうなのだろう。なんでもこれから、これからなんだから後ろ向きに考えるのは止めよう。

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