唇から始まる、恋の予感
車を駐車場に止め、店の暖簾をくぐると、私以外にも女性が一人でラーメンを食べていた。店員さんの威勢のいい掛け声に一瞬ひるんでしまったけれど、ワクワク感の方が勝って、心配している部長に大丈夫と目で合図した。
空いている席に通されて座ると、正面に部長がいる恥ずかしさに、うつ向いてしまう。そんな私の様子に気が付いたのか、メニューの説明をしてくれた。
「ここは全部味噌味なんだ。ネギみそ、辛味噌、トッピングなんかで好きなラーメンに出来るよ? どれがいい?」
「えっと……」
「俺はいつも味噌にコーンとバターをトッピングしたやつなんだ」
「では、私も一緒で」
「わかった、注文するよ? あとはいいかな? ミニどんぶりもあるけど?」
「そんなに食べられませんよ」
「そうだな」
お互いで笑って見つめあう。自然に会話を交わして、そんなことは当たり前かもしれないけれど、これだけで心臓が爆発しそうだ。
気が利いた会話ができない私と、何も話しかけてくれない部長との間に、気まずい雰囲気が流れ、膝の上においた手をただ眺めているだけだった。何か話さなくちゃと、頭の中にある出来事を呼び起こそうとしたけど、家と会社の往復をしている私には、出てくる映像は会社と家の風景だけだった。
そんな気まずさの空気を破ったのは、注文したラーメンだった。
「お待たせしました」
どん、どんと、どんぶりが置かれてその前にあるラーメンをじっと見てしまった。
「はい」
声を掛けられてはっと顔をあげると、部長が箸を持って私に向けていた。
「ありがとうございます」
「いただきます」
両手を合わせて部長は言った。とても小さなことだけれど、部長の育った家庭と本当の人柄が見えた仕草だったし、私の家族はみんなこうして手を合わせて食事の挨拶をしている。小さなことだけど、同じ価値観であったことがとても嬉しい。
「いただきます」
部長は男の人らしいく豪華に口に入れ、とても美味しそうに食べる。
私はスープから口に入れて、麺をすすった。
「美味しい……」
「良かったよ、口に合って」
当たり前だけど、自分で作るラーメンと全然違う。味噌のコクと甘さがいい。どんどん口に入って、スープまで飲み干す勢いで夢中で食べていると、部長の視線に気が付く。
「あ……」
食い地が張っていると思われてしまっただろうか。恥ずかしい。
「言ってもいい……かな?」
「……はい」
食べる手を止めて、両手を膝の上に置く。
「あ、いや、そうじゃなくて……美味しそうに食べるなって……それに食べ方も綺麗だなって思っただけなんだ。変な意味じゃなくて、あのごめん!」
発作が起きないように探り探り言う部長に申し訳ないのと、嬉しいので気持ちがぐちゃぐちゃするけれど、分かっているのは普通の人と同じように食事が出来たことだ。
「気にしないでください。私は部長が言うことは信じるし、大丈夫ですから」
「分かった、これからは普通にするよ」
「すみません、気を使わせてしまって」
「そんなことをいうと余所余所しいし、最低限の気遣いをしただけだよ」
「はい」
「食べて」
もう一度箸を持ってラーメンを食べる。部長も同じく食べ始めて、一緒に食べ終えた。
空いている席に通されて座ると、正面に部長がいる恥ずかしさに、うつ向いてしまう。そんな私の様子に気が付いたのか、メニューの説明をしてくれた。
「ここは全部味噌味なんだ。ネギみそ、辛味噌、トッピングなんかで好きなラーメンに出来るよ? どれがいい?」
「えっと……」
「俺はいつも味噌にコーンとバターをトッピングしたやつなんだ」
「では、私も一緒で」
「わかった、注文するよ? あとはいいかな? ミニどんぶりもあるけど?」
「そんなに食べられませんよ」
「そうだな」
お互いで笑って見つめあう。自然に会話を交わして、そんなことは当たり前かもしれないけれど、これだけで心臓が爆発しそうだ。
気が利いた会話ができない私と、何も話しかけてくれない部長との間に、気まずい雰囲気が流れ、膝の上においた手をただ眺めているだけだった。何か話さなくちゃと、頭の中にある出来事を呼び起こそうとしたけど、家と会社の往復をしている私には、出てくる映像は会社と家の風景だけだった。
そんな気まずさの空気を破ったのは、注文したラーメンだった。
「お待たせしました」
どん、どんと、どんぶりが置かれてその前にあるラーメンをじっと見てしまった。
「はい」
声を掛けられてはっと顔をあげると、部長が箸を持って私に向けていた。
「ありがとうございます」
「いただきます」
両手を合わせて部長は言った。とても小さなことだけれど、部長の育った家庭と本当の人柄が見えた仕草だったし、私の家族はみんなこうして手を合わせて食事の挨拶をしている。小さなことだけど、同じ価値観であったことがとても嬉しい。
「いただきます」
部長は男の人らしいく豪華に口に入れ、とても美味しそうに食べる。
私はスープから口に入れて、麺をすすった。
「美味しい……」
「良かったよ、口に合って」
当たり前だけど、自分で作るラーメンと全然違う。味噌のコクと甘さがいい。どんどん口に入って、スープまで飲み干す勢いで夢中で食べていると、部長の視線に気が付く。
「あ……」
食い地が張っていると思われてしまっただろうか。恥ずかしい。
「言ってもいい……かな?」
「……はい」
食べる手を止めて、両手を膝の上に置く。
「あ、いや、そうじゃなくて……美味しそうに食べるなって……それに食べ方も綺麗だなって思っただけなんだ。変な意味じゃなくて、あのごめん!」
発作が起きないように探り探り言う部長に申し訳ないのと、嬉しいので気持ちがぐちゃぐちゃするけれど、分かっているのは普通の人と同じように食事が出来たことだ。
「気にしないでください。私は部長が言うことは信じるし、大丈夫ですから」
「分かった、これからは普通にするよ」
「すみません、気を使わせてしまって」
「そんなことをいうと余所余所しいし、最低限の気遣いをしただけだよ」
「はい」
「食べて」
もう一度箸を持ってラーメンを食べる。部長も同じく食べ始めて、一緒に食べ終えた。