唇から始まる、恋の予感
どれくらいこうしていたのか分からないけれど、目が覚めると怠い感じはあったけれど、電車に乗って帰れるくらいに身体は回復していた。
複数の人の気配がして、何か話し声が聞こえる。
一人は先生、もう一人は……。部長だった。なんでここにいるの? 

「心配なのは分かるけど、仕事に戻って」
「だけど」
「女の人は休んでいる姿を見せたくないものなのよ。私は医者なんだから任せなさい」
「わかった。頼んだぞ」
「はい、はい」

ドアが開いて出て行く様子がわかった。

「先生」
「起きた?」

カーテンを開けると、優しい笑顔の先生の顔があった。脈をはかり、体温をはかると、「大丈夫ね」と布団の中に出した手をしまった。

「過呼吸になったのはいつから?」
「……中学の時です」
「最近は?」
「ずっと症状は出ていませんでした」
「今日、そうなってしまった原因は自分で分かる?」
「……」

言ってしまうと、告げ口になってしまうようで、言えなかった。
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