唇から始まる、恋の予感

支える意味

「よくも飛ばしてくれたな」
「お前のお陰でアメリカの事業所も順調な滑り出しで、感謝しているよ」
「貴重な時間を奪っておいてよく言うな。絶対に取り戻してやる」
「言っておくが、恨まれるようなことはしてないぞ、お前の要求を守り抜いたんだからな」
「当たり前だ」
「何はともかく、お疲れ」

相変わらずきちんと整理された家だ。
俺はまだ段ボールが山積みの家の中で生活している。帰国してすぐだからと言い訳をしているが、そもそも片づけは苦手だ。片づきすぎる家はなんだか落ち着かない。

「で、どうなんだ彼女は?」
「ああ……」
「なんだか深刻だな」
「ああ……これからだよ。そっちこそどうなんだ? 社長」
「俺はちゃんと収めたぞ、色々と大変だったけどな」
「あの秘書の事だから、ちょっと違う大変さだろ?」
「わかるか?」
「わかる」

ファイブスター製薬社長の五代は、俺と大学が同じで、同級生でもあった。
ゼミで知り合って頭の切れる男だなと思ったら、社長の息子だった。
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