唇から始まる、恋の予感
「なあ……」
「なんだ?」
「守りたい人が大きな悩みを抱えていたとしたらどうする?」

今日の出来事は衝撃的だったし、心配で仕事が手につかなかった。まさか、倒れてしまうとは、いったい何があったんだ。

「彼女か?」
「……ああ」
「すでに彼女だったら、そばにいて支えられるが、まだその段階じゃないだろう? そもそも彼女にとってお前は上司にすぎないし、そこから抜け出さないことには何もできないじゃないか。 でも、好きとか嫌いとかの感情を抜きにしても、部下が悩んでいたのなら、話を聞いて対処するのが上司としての役目じゃないのか? まずはこそからだよ。焦りたい気持ちは分かるけど、まずは白石さんから頼られるようにならなきゃな。お前から白石さんのことを聞いて、俺なりに気にかけていたが、ちょっと特殊というか……近寄りがたいというか……ん~悪い……」
「いいんだ、言いたいことは分かるから」

彼女が変わっているわけじゃない。少し人と違うだけだ。だけど、職場での彼女しか知らない俺に、何が出来るというのだろうか。

「だいたいな、お前がアメリカに行けと言わなきゃ俺は、今頃白石を彼女にしてたんだ」
「自意識過剰だな、彼女がお前を好きだとでも?」
「それは……嫌味なやつだな」
「俺はお前が必要だ。ゆくゆくは俺の右腕になって欲しいと思ってる。それは同級生とか関係なく、大東の能力を買っているからだ」
「先に言っておくが、俺はこれ以上の昇進を望んでいない。部長になることすら望んでなかったし、これからある昇進試験も受けるつもりもない」
「なに?」
「そういうこと。だから最後にお前の命令を聞いてやったんだ、ありがたく思え」
「それは受け入れられないな」
「それなら辞めるしかない」
「それもダメだな」

< 18 / 134 >

この作品をシェア

pagetop