唇から始まる、恋の予感
「そう言えば、沙耶が白石さんと同期だと言ってたぞ」
「水越さんと? そうか、同じ年齢かもしれないな。おい、ちょっと待て、俺たちって若い女好きに見えてないか?」
「若くても、俺たちと年が一緒でも、彼女たちだからじゃないか? そう年齢にこだわるな」
「良い方に取るねえ、社長」
「ただし、リスク管理はちゃんとしないとな」
「リスク管理?」
「彼女たちより、年を取っていることだ」

なるほど、それは非常に重要なところだ。
アメリカ生活で自炊は身に付いたが、何故か体重が増えていた。アメリカは恐ろしく太る国だ。

「ジムでも行こうかな」

掴めなかった腹の肉が、掴めるようになっていて、大分ショックを受けた。自分の腹をと五代の腹を見比べたが、比較にもならなかった。

「対策が遅いぞ、俺はとっくに鍛えてる。年下彼女は、体力がいるからな」
「確かに」
「いろいろとな……」
「……やらしいな、おまえ」
「……お前だっていずれ分かる」

一瞬で想像をしてしまった。恥ずかしがる年齢でもないが、白石を、白石とそういうことになるというまで行っていないのに、想像出来るなんて、男というものはしょうもない生き物だ。

「だけど、俺たちって一途じゃないか? 俺だってアメリカに行く前から白石が好きだったし、五代だって水越さんを秘書にしたときからだろ?」
「そういえばそうだよな」
「いやあ、俺たちって一途で純情だねえ、浮気なんて言葉は、俺たちの辞書にはないね」
「言い方が親父臭いぞ、白石さんに捨てられるからな」
「脅すなよ」

会社では同級生と言えないし、当然、社長と社員だから親しい素振りも見せられない。こうして会う時だけが、友人に戻れる時間だ。
五代のマンションを後にして、自宅に戻ってみると、家がほんとうに汚い。

「これは、片づけないと白石を呼べないぞ」

金を払って片づけを頼むか、自分でやるか。それが問題だ。週末はデートをしたいところだけど、それはずっと、かなり、いや、遥か彼方先のこと。

「片づけが先か・・・・なんか俺の人生、うまくいかない」

いや、後ろ向きになったらだめだ。五代のように気長に、前向きに考えよう。また明日、白石に会える。それだけでいいじゃないか。
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