唇から始まる、恋の予感
大いに盛り上がっている会場を抜け、静な場所に来た。

「夜の会社は怖いくらい静かね……」

中学の時に読んだ怪談話がふと頭をよぎる。窓際に立つと、自分の後ろに知らない誰かが立っているという場面。

「いないわよね」

ミステリーや怪談話は好きなくせに、怖がりな私。ここに来たのは不正解だったかも。

「考えちゃだめ、目の前には綺麗な夜景が広がっているんだから、それを見るのよ」

手にはおいしそうなお料理とお酒がある。一人でパーティーをしていると思えば、ここは怖い場所じゃなくなる。

「いただきます」

一口お酒を飲んで、夜景に目をやると、私の背後に人が映っていた。

「きゃあああああ」

叫んでみたけど、その声は響くどころか、かすれてしまい声として出ていなかった。本当の恐怖の時は、声がでないものらしい。
さらに私は、腰を抜かしてしまって、身体の何処にも力が入らず、逃げることも出来なかった。
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