唇から始まる、恋の予感
おとなしい女なんだと思っていたが、全く違ったようだ。植草が諦めたほうがいいと言ったのは、俺の手におえるものじゃないと判断したからだろう。
かといって、俺だって気持ちを抑えられるわけがない。白石を諦める、諦めない以前に、深く彼女を想っていなかったら、ここまで一人いない。
正直アプローチはあった。白石を確実に彼女にする自身はないし、何度も揺らぎそうになった。でも、彼女を想う気持ちの方が強かった。

「俺の強い覚悟が必要ってことか……」
「男の人は嫌になるわよ」
「何に?」
「自己否定ばかりする彼女に」
「どういうことだ? 誰でも自己否定はするときがあるだろう?」
「分かってないわね。私が察するにいじめられていたことがるんだと思う」
「いじめ……」
「誰でも一度はいじめられたというけど、そんな軽いものじゃないと思うわ。私は精神科医じゃないから憶測でものを言えないけど、あの誰も寄せ付けない雰囲気と過呼吸、無症状で感情が分からないなんて、それが原因としが考えられないわ。まあ、あとは」
「あとは?」
「虐待とかね」
「虐待……」
「どちらにしても、そうとう辛い過去があるはずよ。この前の体調のこともあったし、あの時はすぐに帰してしまったけど、あなたから来るように言ってくれる? 彼女は命令しないと絶対に来ないから」
「分かった」

植草の話は、俺の想像を超えていた。まだ憶測に過ぎなかったが、植草言うようなことがあって、白石を作り上げたとしたら、合点がいく。

「俺に彼女を支えることが出来るのだろうか」

好きという感情と、俺の支えてやりたいという気持ちは、どうやら軽すぎたようだ。

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