唇から始まる、恋の予感
あの日から一週間たった。
部長はお昼に現れることもなく、いつも通りのお昼がとれるようになった。
遅れてしまったけど、診察時間外にも関わらず来てくれた植草先生に挨拶と、醜態をさらしてしまったことのお詫びと、少しだけ自分のことを話してみてもいいかなと思って、医務室を訪ねた。

「先日はご迷惑をおかけしました」
「迷惑だなんて言わないで。私も心配だったのよ。どう? 体調は? 発作は起きてないかしら?」
「はい、あれからは一度も」
「良かったわ」

先生は私の顔を見て、微笑んでくれた。

「白石さんはあとどれくらいでその……言っていたことを行動に移すつもりなの? 倒れた時に大東さんから聞いたの。気を失った原因が知りたくて」

私は部長に整形をすると叫んだ。別に悪いことじゃないから話しても構わない。

「会社を今年度中に退職する予定です。元々、やりたい仕事があったからこの会社を選んだわけじゃなくて、上場企業で給料や福利厚生が充実していたところがよくて、エントリーをしたようなものでしたから」
「……立ち入ったことを聞くようだけど、ご家族はなんておっしゃってるの?」
「両親もはじめはびっくりしていましたけど、私がやりたいようにすればいいと、自分の人生なんだからと言ってくれました」
「仲はいいのね?」
「はい、こんな私をずっと支えてくれています」
「白石さんは、自分の顔が醜いと言っていたけど、どうして?」
「え? あの……見ていただいて分かるように、すごくブスですから。人前に顔をさらすのも恥ずかしいです」

見れば分かるのに、わざわざ言わせるなんて先生は意地悪だ。

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