唇から始まる、恋の予感
部長と私の距離は、いつもより離れていた。私が発作を起こしてしまっても、すぐに支えてはもらえないような距離。今、ここにいてもまだそんなことを考えるなんて、私は欲張りだ。だから自分に厳しい決断をしなくてはいけないのだ。

「私が過呼吸になったのは中学の時で、原因はいじめです。ちょうどクラス替えをした中学二年生の時です。今の私からは想像出来ないでしょうけれど、あまり人見知りをしないタイプでしたので、すんなりとクラスに馴染んで行きました。
一学期の時、違うクラスの男の子に告白をされました。その男子はサッカー部の子で、女子にイケメンだと人気があり、好きだという女子も多かったんです。私は顔を知っている程度で好きという感情も、嫌いという感情もない、まったく知らない同級生いう認識しかなかったんです。私なりに誠意を込めて丁寧に断ったし、男子も納得してくれました。ですが、その男子を好きだった女子が同じクラスで、「あんたみたいな子が、告白を断るなんて何様のつもり」と言い始め、悪口から嫌がらせ、いじめへと発展しました。好きな子が私に取られることなくフリーでいるのだから、喜んでもいいはずなのに、何故か攻撃が始まり、目はデメキン、まつ毛は毛虫が乗っている、唇はたらこで厚い、鼻は、穴が変な形だ、えくぼはクレーターだと顔のことを言われ、給食も始めは食べていましたが、食べている姿、唇が「たらこがたらこを食べているみたい」と言われ、次第に私を中心に周りをクラスメイトが囲んでの給食が始まりました。「まるで動物園みたい」とまで言われました。そんな状況で食べられるわけもなく、そんな私に「食べろ」と命令し、それでも食べない私に、その女子を中心として身体を押さえつけ、無理やり食べさせられたこともありました。このみっともない唇をどうしたらいいか、見たくない鏡を見ながら試行錯誤して食べ方の練習をしました。私の食べ方は、厚い唇を薄くさせるために、口をつぐんで大きく開かず、まるで鳥がエサをつつくように少しずつ食べるという食べ方です。自分でも変な食べ方だと思いますが、たらこにならないようにするには、これしか方法がなかった。それから人前で食事をすることが一切出来なくなりました。それと、笑うと出来るえくぼ。クレーターだと言われ、つつかれたこともありました。笑うと上がる口角がジョーカーのようだと。この時から一切笑わないようにしました。そもそもいじめが始まってから、楽しいこと、おもしろいことなんて何ひとつなかったので、今となっては笑い方も忘れてしまったみたいです。そんな私の顔を似顔絵にして、号外として学級新聞をつくり、学年中に配られました。鏡を見ると、本当に言われた通りの醜い顔で、見るのも嫌になり、顔の次は身体を攻撃されるんじゃないかと、長袖とズボンで隠すようにして、肌を見せないように努力しました」




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