唇から始まる、恋の予感
そっちか。

「……正直ショック過ぎて何も考えてない」
「バカなの?」

ついにはバカと言われてしまう。植草は眉間にシワを寄せてとても怖い顔だ。旦那と子供はこう言う顔で怒られているんだろうな。

「好きとか嫌いとかいう感情は考えるものなの? ここで感じる物なんじゃないの?」

少々ドスの聞いた声で胸の辺りに手をあてた。
確かにそうだ。俺はまだ白石が好きだし、更にもっと好きになっていた。ただ、年齢を重ねた分、好きなだけではダメなんだということを知っていて、諦めることも相手に対する思いやりなんだと思っている。

「確かに彼女の場合は特殊過ぎて、再アタックしなさいとは言えないわ。失恋はショックだけど、好きになった人にフラれても、私でもすぐには諦められないけど? 諦めてすぐ違う人を好きになれるんだったら、それは好きじゃなかったってことじゃない?」
「……」
「それに、なんで私が40近い人に恋愛について教えてあげてるのよ。私より断然恋愛経験豊富なくせに」
「……」
「大学の時だって、モテすぎて女を選ぶのが大変だったくせに」
「……」
「自分の容姿が良いことを理由に、次から次へと」
「……」
「そんな風に女を軽く見て付き合ってきたから、今になって女から反撃されてるのよ!因果応報ね」
「……すみません」
「ふん」

植草は本当に怖かった。お茶を継ぎ足してくれたけど、そのお茶は苦さが増していた。



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