唇から始まる、恋の予感
買い物から帰ると、リビングで買った物を広げてファッションショーが始まった。あーでもないこーでもないと、マシンガントークが炸裂していて、この中で男が一人という尚さんは本当に大変で、同情してしまう。俺は喜んでくれて何よりだと思うしかない。
まあ、姉貴には親父のことを押し付けてしまっているし、誕生日のプレゼントもあげたことがない。その罪滅ぼしと思えば安いものだ。
だけどさすがの俺も、姉貴一家の買い物したクレジットの控えを見て、恐ろしくなった。

「まるでセレブね」

上機嫌の姉貴と双子は、帰ってからというもの俺への態度ががらりと変わり、夕飯は俺の好きなおかずが並んだりして、至れり尽くせりだった。何より傷心の俺の心を温めてくれたのは、何といっても味噌汁だった。
五代のような腕前には到底なれないが、味噌汁くらいは作れるようになりたいと思った。
尚さんには、姉貴と親父の面倒をありがとうという詫びのつもりで、ワインを一本買った。
リビングでテレビを見ながらお茶と野沢菜とつまんでいると、双子が言った。

「俊介、フラれたんでしょ」

まだ12才のこどもなのに、既に女の勘が働くのか?

「ママ~俊介ね、フラれたんだって!!」

バタバタと走って、台所にいる姉貴に報告にいく。

「違うだろ!」

40才手前の男が、12才のこどもを相手にむきになるという恥ずかしい展開。
小さなお盆に青梅のはちみつ漬けとシャインマスカットを乗せて、姉貴が俺の前に座った。

「梅、好きでしょ?」
「うん」
「帰りに持って行きなさい」
「ありがとう」
「で、いつフラれたの?」

どいつもこいつも傷心の俺を更に傷つける。

「つい最近」

俺も俺だが、姉貴に誤魔化しはきかないから、正直に言う。

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