ファーストクラスの恋 ~砂漠の王子さまは突然現れる~
「大丈夫かい?」
「ええ」

座席に戻ると、ハサンの席とその隣席にベッドメイクが終わっていた。
2つの席を隔てる仕切りも取り払われていたために、パッと見には一つの大きなベットがあるように見える。

「勝手にターンダウンしてもらったけれど、よかったかな?」
「ええ」

ターンダウンとはベットメイクのこと。
国際線のファーストクラスではお願いすれはCAさんがシートを倒してマットレスと敷いてくれる。
もちろん話でしか聞いたことはなかったけれど、こんなに本格的なベットが飛行機の中でもできるのね。

「さあ、少し眠ろうか」

ハサンに右手を差し出され、私はためらうことなく手を重ね用意されたベッドへと入った。
当然のように、ハサンも隣のベットに横たわる。
綺麗にメイキングされたシートに体を預けながら、これじゃあまるで恋人同士みたいだわなんて思ったけれど不思議と迷いや躊躇う気持ちはない。
自分でも今が現実なのか、夢なのかわからない感覚に陥っていった。

「彼にはちゃんと話をして、2度と君に付きまとわないと約束してもらったからね」
だから安心してと、ハサンは笑いかける。

「でも、どうやって?」

確かに強引なやり方だったけれど、私と彼が元恋人同士なのは事実だし、どちらかというと嘘をついているのは私とハサンの方。
その昔随分とお金を使わせた負い目があるから、私は強い態度にも出られない。

「大丈夫だよ、もう君が泣くようなことはさせない」
穏やかだけれどきっぱりとした口調は決意に満ちている。

「ありがとう」
私は隣に横たわるハサンに頭を下げた。
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