ファーストクラスの恋 ~砂漠の王子さまは突然現れる~
「凪、楽しい時間をありがとう」

飛行機が着陸しシートベルトサインが消えてから、ハサンは私に向けて小さな紙を差し出した。
見た瞬間にそれが名刺だとわかったけれど、私は手を出すことをしなかった。

「どうしたの?」
受け取ろうとしない私に、ハサンの不思議そうな顔。

「この出会いは旅のいい思い出にしたいの。だから連絡先は頂きません」

名刺を受け取れば連絡をしたくなるだろうし、ハサンについてもっと知りたくもなる。
私にとってハサンは住む世界の違う人だから、旅先ですれ違った王子様くらいでちょうどいい。

「どうしても?」
「ええ」

それ以上ハサンは何も言わなかった。
一緒に空港に入り入国審査を過ぎたところで、私達は握手をして別れた。
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