「みんなで幸せになると良いよ。」
しばらくは友人を休ませて残りのメンバーだけでやっていけたが、大口の仕事が決まるたびに歯車が狂い始めた。

意思の疎通もうまくいかず、引け受けられる仕事の選別すら難しくなってきた。

友人には家族は母親だけだったから面倒を他に見てくれる人が居ないし、
何より唯一無二の家族を他人になんて任せたくもないという性格が仕事から円滑さを奪っているのは明らかだった。

規模は小さくてもいいからもう一度やり直したいと友人に告げ、現在受け持っている仕事の契約が切れ次第 大口の契約は見直し、事務所を友人の母親のいる病院の近くに移動しようと提案した。

気を遣わせて申し訳ないという友人に、
「一緒に仕事したいやん!」と軽いノリで肩を叩くと彼は快諾してくれた。

友人の母親が入院している病院、つまり僕達の生まれ育った町に帰ることにした。

「また、戻るんや」

少しだけ不安だった。

大学のある地元。

椿のことばかり考えてしまうことから、僕が逃げ出した街。
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