神様、俺は妻が心配でならんのです
 けれど荒れ地や自然、復興中の町が遊び場の少年達にとって、防空壕というのはお金に変えられる物があるのではないか、使える物が残っているのではないないかと冒険心がそそられる場所でもあった。

 未回収の骨が出てくることも少なくなかったから、入ることに慣れてしまった少年達にとっては、驚きではなくなる。

 ただ、不発のまま残された手榴弾を誤って起爆させ、亡くなった子供もいた。
 仲村渠の兄も、それで死んだ。

 彼の父親は漁師をやっていて、不定期に船を出した。

 まだ日も明けぬ時間に、母親が作った握り飯を三個ほど風呂敷に詰めて港に向かう。

 父は戻って来ると魚を競りに出し、よく仲間同士で酒を飲んだ。普段から喋る人間ではなかったが、飲むと何かしら不満をこぼす男だったから、次第に家族との距離が開いていったことは仲村渠も覚えている。

 中でも父が一番嫌われたのは、金遣いの荒さだった。

 いくらでも酒を飲んだし、連日船を出さない日は仲間同士で居酒屋を回って、帰って来なかった。
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