神様、俺は妻が心配でならんのです
 仲村渠は、強く目を閉じた。

 彼女を深く愛していたという事実が、無数の鋭い剣のように身体中を突き刺してきて、今にも涙が溢れそうだった。

 若い頃の自分を叱咤してやりたい気分だった。

 見栄や、世間体なんか忘れて、無防備な心で過ごせていれば――彼はあらゆる幸福に気付くことができただろうに、と彼はひどく後悔した。

「……俺は、どうすればいいのですか?」

 目頭が熱くてたまらなかったが、彼はテーブルへ向けた両目を感情でこれ以上焦がさぬよう努めながら、喉の奥から声を振り絞った。

「あなたはすでに、話しをする中で答えを得た」

 迷いのない淡々とした男の声が、最後の審判のように仲村渠の耳朶を叩いた。

 まさに、その通りだった。

「あなたは、すでに自分がどうすべきか、選んでいる」
「…………」
「あなたが視えず、聴こえなくとも、あなたは正しい道へと手を引かれている。神は乗り越えられる試練しかお与えにならないという。ならば、あなたは、あなたを信じて導くモノ達に、今度こそ偽りのない心で自分がするべきことを、行えばいい」
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