神様、俺は妻が心配でならんのです
「まぁ後押しの言葉が欲しくなるのは、分かりますよ。でも人は常に選択する。大切な選択ほど、人任せにはできませんでしょう」

 ミムラが困ったように笑った。仲村渠も、苦笑を返した。

「俺は……ひどい夫だったのです。思い返した俺の胸を抉る、この思いが、偽りのない俺自身の心、なのでしょうなぁ」

 仲村渠は、鼻から大きく息を吸った。泣き崩れまいとして作り笑いを浮かべた男というのは、どんな顔をしているのだろうかと、どうでもいいような疑問が仲村渠の脳裏をかすめていった。

「妻は私を、少しの間でも愛してくれていたのでしょうか」
「愛していなければ、今起こっていることの説明がつかないです」

 東風平が、きっぱりと言ってのけた。

「奥様は誰よりもあなたを想い、毎日二人の健康と幸福を、神様に祈り続けていたのですよ」

 仲村渠はそれを聞いて、膝の上で拳を握り締めた。

(そんなことを言わないでくれよ)

 その言葉は、声にならなかった。咄嗟に唇を引き結んだものの、下を向いた途端、自分の腿の上に、ぽた、ぽたと涙がこぼれ落ちるのが見えた。
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