神様、俺は妻が心配でならんのです
 目の前にいるはずの妻が、眩しい光に包まれていく。

 ――とても、温かい。

 彼女を守っていた何かが、彼女を連れ帰ろうとしてくれているのか。

「きっと、会いにゆくから」

 仲村渠は、できるだけ心を落ち着けて、そう言った。

「そこで、また会おう。今度は俺がお前に会いにいくよ」

 だんだんと光に溶けていく妻の立ち姿が、揺らぐ。

 幻が、とうとう消えてしまうのだ。けれど仲村渠は言葉を告げた時『結婚しよう』と言ったあの頃の幸福な顔で、彼女が心から微笑んだように見えた。

 きっと、会いに来て、約束ですよ、と。

 そんなことを語る表情だと、仲村渠には感じた。


 ハタと気付いた時、彼は食卓に置いた腕に顔を埋めている状況だった。

 あれから、どのくらいの時間が経ったのだろう。

 窓の外を見てみると、すっかり夕暮れの色に包まれていた。食卓には何も置かれてはいない。何もかも幻だったかのように、そこには伽藍とした一人暮らしの光景が広がっていた。
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