神様、俺は妻が心配でならんのです
 仲村渠は、喉の乾きを覚えて台所へと向かった。

 ガス台にある鍋に気付いて、思わず足を止め、見入った。

 触れてみると温かかった。おずおずと蓋を開けると、美味しそうな野菜スープの香りがキッチンに広がる。

「……幻じゃ、ない」

 ポーポーの皿はなくなっているのに、どういう原理なのだろう。

 水分補給を済ませてあと、仲村渠は鍋を温め直してみた。

 スープ皿に入れると、薄く色づいたトマトが入っていることに気付いた。一口、二口と食べてみると、味はとても薄い。

 最後に、塩を入れて仕上げるつもりだったのだろう。

「ふふっ、そうか。仕上げる前に、俺が声をかけたからか」

 トマトの微量な香りと、ほのかに野菜の甘みが舌の上を滑った。仲村渠は「美味いなあ」と言い、続けて、何度か口に入れて味わった。

 スープに、ぽたぽたと落ちてていくものがあった。

 震えるスプーンですくい上げたスープにもこぼれ落ちて、涙だと仲村渠はようやく実感する。口に入れると少し塩辛くて、いよいよ涙だと分かった。
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