神様、俺は妻が心配でならんのです
 こらえ切れず、仲村渠は声を押し殺して激しく咽び泣いた。

 彼女が、そこにいない。とても美味しい野菜スープを残して、彼女が消えてしまった、元通りになつてしまった目の前に戻った現実が、寂しくて、寂しくて、彼は仕方がなかった。

             ※

 病気との付き合いには慣れていたから、私はその年も、とくに気には止めていなかった。

 少し内臓が弱ってしまっていると、お医者様はそう言った。

 高齢にも差しかかっているのだから、以前からは食べ物にも気をつけている。今では減塩の料理もすっかり上手になりましたのよと私が話すと、主治医は、いつも悲しそうな顔で微笑むのだ。

 きっと、私と同じ年頃の母親がいるのではないかしら。

 人がよすぎる医者が、多く訪れる患者の一人一人に心を痛めているような気がして、だから私は『大丈夫ですよ』と教えてあげたのだけれど、やっぱりそのお医者様は困ったように笑って、何も答えてはくれなかった。

(私、すっかり年寄りになってしまったのね)

 私はそう思った。身体中にすっかりガタがきてしまっているから、短期間の入院も増え出していた。
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