神様、俺は妻が心配でならんのです
 漁師という仕事は収入が不安定だったが、彼は貯金といったことにもまったく不向きな男だったのだ。

 船には、一番金がかかった。嵐で船体が傷つくと修理に数十万はかかり、エンジンだけで数百万もした。

 しかし、父はエンジンを取り替えたばかりの翌年には、新しい船が欲しくなり、借金をしてまた船を買い替えた。そうしているうちに借金は膨れ上がり、収入がいくらあっても足りなくなっていった。

 一番苦労したのは、父を支え続けながら家事と育児を行っていた母だろう。

 長男は漁師となって、父とは別の船の船長に雇われて収入を得た。仲村渠と年違いの兄である三男は、自営で釣り具の経営を始めた。

 その二人のおかげで、金のない月でもどうにか過ごせたが、四男の仲村渠は勉学がしたかった。年が十以上離れた二人の兄弟に相談し、母が見守る中で兄弟三人、父と向きあった。

「父さん、弟の孝徳を大学までいかせてやりたいんだ。俺たちは勉学をしなかったが、こいつは勉強がしたいんだよ」
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