神様、俺は妻が心配でならんのです
 そう言って少し唇を尖らせていた。

「いつか、あなたにも分かるわよ」

 私は、微笑んでそう答えた。

 いつまで経っても退院できる気配はなかった。

 出血しているという大腸の一部は手術したけれど、病室のある階から、下は行かせてはもらえなかった。

 免疫が落ちてしまっているから、何か必要な物があれば声をかけてくださいと、目元に黒子のある美人な若い看護士がそう言った。

 彼女はどことなく目を引きつける美しい人で、シーツをまとめる時の丁寧な指先が優しい女性だった。夕方から深夜まで、彼女が私の病室を担当していた。

 最近は、眠ることが多くなっている。

 どういったことを考えながら眠りに落ちてしまったのか、目覚めると忘れているのだ。

 でも、いつも懐かしくて、大切な日々を回想しているようにも私は思えた。

(元気になったら、また退院して、定期検査の生活に戻るだけ)

 何度も経験したことだったが、なぜかある時、不意に不安になった。

 自分がすっかり弱ってしまっていることを感じて、私は『もう長くないのかしら?』なんて心配になった。
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