神様、俺は妻が心配でならんのです
(まさか病室に踏み込んだ瞬間に殴られるんじゃないだろうな……)

 そんな不安ばかりが、仲村渠の脳裏を過ぎっていくのだ。

 その時、城間が向こうから歩いてくるのが見えた。

 背筋をシャンと伸ばした細身の男だ。白い頭髪はやや薄くなっているが、体脂肪はほとんどなく、背も高いままだ。

 城間は今でも視力がしっかり残っているから、仲村渠の姿に気がつくと手を振って「おぉ~い」と笑顔をこぼした。仲村渠は、恥ずかしい奴めだ、と舌打ちしたくなったが、緊張で口が渇いてうまくできなかった。

「なんだ、妙な顔をして」

 開口一番、城間は仲村渠の顔をまじまじと見てきた。

「他に言うことはないのか」

 仲村渠が指摘すると、彼は「ふうむ」と首を捻り、それからポンと相槌を打った。

「ま、死に別れたわけじゃないんだ。まだまだ、これからたくさん話すこともできるだろう。だから、大丈夫だよ。変な顔をしなさんな」

 ――大丈夫。

 その言葉にじんっときて、仲村渠は友人を見つめていた。
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