神様、俺は妻が心配でならんのです
「分かった。大物を釣りゃあそれだけで入学資金になる。俺も頑張ってやるさ。もしもの時は、俺の船を売ってやってもいい。孝徳、お前も頑張らなければいけないぞ。チャンスは一回だ。一発で合格できなきゃ、本気じゃなかったと俺は受け取るからな」

 漁師の仕事は、毎月の収入が大きく違う。

 父は頑張りを見せて借金は急速に減っていった。不景気には微増を繰り返したものの『頑張れば返せないことはないのだ』と仲村渠も期待した。

 だから仲村渠は、家を手伝いながら必死に勉強した。勉強にあてる金はなかったが、すべては六年後の大学受験のためにと心を決めていた。

 勉強なら同級生の誰にも負けなかったし、自己防衛のための喧嘩も次第に負け知らずになり、身体だって強くなっていった。

 彼が家を飛び出したのは、それから六年後のことだ。

 当時十八歳だった仲村渠が学校から受け取ったのは、大学の合格を知らせる通知書だった。

 けれど父は「そんな約束など知らぬ」と赤ら顔を傾げて言い放ち、仲村渠が問い詰めると、激怒した。
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