神様、俺は妻が心配でならんのです
 彼はその視線を受け止めて、どきっとし、けれどそれを顔に出さないように動きつつ答える。

「わかった」

 そう言いながら彼は〝テレビの電源を入れて〟ボリュームを調整した。

 テレビの電源なんてはじめから入っていなかったのだが、そこについては、妻に教えなかった。

「あなたったら、いつもまず始めにテレビをつけてしまうんですもの。ふふふ、新聞を読むから、別に見もしないのにねぇ」

 ああ、そうだったな、と彼は心の中で相槌を打ってしまう。

 気付いたらまた、考え込んでしまっていたせいだ。

「でも、私達、長らくずつと一緒にいたんですもの。だから今では、私までテレビを見るようになったのよねぇ。あなたが食卓につく頃に始まっている朝のニュース番組とか、そのニュースの合間に流れる占いとか」

 妻は手際よく朝の支度を進めながら、いつものようにテレビの音に耳を傾けていた。

 彼女は、番組の中盤に流れる星座占いと、血液占いをチェックすることを楽しみにしていた。直前まで何も聞こえなかったなんて、彼女の中では起こっていないみたいだと、仲村渠は彼女の健康そうな後ろ姿を見て、思う。
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