神様、俺は妻が心配でならんのです
「よく、眠れたかね」

 彼は新聞を大きく広げ、姿勢を楽にしつつまずはそう尋ねた。想像していた通り、彼女は振り返ると「うふふ」と楽しげに微笑んだ。

「変な人ねぇ。ええ、よく眠れましたよ。いつもと変わらないですよ」

 彼は「そうか」と答え、新聞の文面へと視線を戻す。

「つまらないことを聞いて、悪かったな」
「いいえ。私は嬉しいですよ」
「そうか」

 彼が頷いてみせると「相変わらず口数が少ないのね」と妻が笑う。

「けれど私、あなたのそういうところも、好きよ」

 その声に――彼はちっとも文章が入ってこない新聞を、微かに力をこめて握った。

(寝ている間を認識できる人間はいない、か)

 家事を済ませた彼女がベッドに入ってきたのか、仲村渠が眠っている間に起床までしていなくなってしまったのか。

 けれどベッドには、彼一人分の皺しかなかったけれど。

(でも――)

 ひとまず、妻の朝の目覚めが素晴らしいものであったとしたのなら、それでいいように思えたのだ。
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