神様、俺は妻が心配でならんのです
 彼と妻の間で起こっている〝ささやかなズレ〟だとか、現在彼を悩ませている大きな問題についてさえ、彼女自身が不安感など心を痛めることがないのであれば、まずはそれでいい、と。

 考えなければならないこと、そしてやらなければならないことが仲村渠の脳裏をよぎっていった。

 仲村渠は新聞を下ろし、コーヒーカップの中にある珈琲に映る自分の顔を、じっと見つめて考え込む。

 その間にも食卓には味噌汁、焼き魚、白米、漬物が並んだ。

 やがて妻が最後の一品を揃えて、彼の向かい側へと腰を下ろす。

「今日も、見事なものだ」

 仲村渠は食卓の上を眺め、眩しいとも懐かしいとも言うように、目を細める。

 冷蔵庫に入れてあったアボガドは、見事な色合いでチーズとトマトの洋風サラダとなっていた。

「ふふ、褒めても何も出ませんよ」
「ふっ――ふふ、そうだな」

 仲村渠も、なんだか途端に可笑しくなってきた。

「いただきます」

 二人で手を合わせ、食事をとる。

 こうして二人で食べていることを不思議に思うと同時に、仲村渠は、アボガドという未知の食べ物を妻と揃って口にしている光景についても、妙な感覚になる。まるでふわふわと宙を浮いている幻の中にでもいるような感覚がした。

 それは、とても、幸せな幻だ。
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