神様、俺は妻が心配でならんのです
「そのサラダ、うまいかね」
「何を言っているの、あなた。アボガドは健康にもいいのだから、しっかり食べなきゃ」
「俺はそんなに不健康そうか?」

 口をもぐもぐしながら頭を右に傾げると、妻は大根の漬物を一枚口に入れ、自分の歯でしっかりと噛みながら考える。

「そうねぇ。あなたの今の顔をたとえると、まるで、あの世から戻って来たみたいな顔、かしら」
「ひでぇ言いようだなぁ」

 確かにしばらくは、不健康な生活だったかもしれないという後ろめたさが込み上げ、反論はそれ以上できなくなる。

「あの世から戻って来た連中は、皆不健康そうだってことかい? そりゃあ、ご先祖様に悪いってもんだろう」

 反論の方向性を変えることにした。

 すると気をそらした際、仲村渠は早速、差し歯の間に挟まった魚の骨に苦戦した。漁師の息子の癖にお前は魚を食うのが下手だと、何度周りの人間にいわれたか知れない。

 やれやれという様子で、妻が妻楊枝を差し出した。

 出会った頃からそうだが、彼女は『漁師の息子の癖に』という台詞を口にしなかった。ただただいつも、こう言う。

「ふふっ。不器用な人ねぇ」

 それが、仲村渠をずっと長らく救い続けていることも一つだった、なんて彼女は思いもしないだろう。
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