神様、俺は妻が心配でならんのです
 仲村渠は人には見せられないが、妻に照れ臭そうに笑い返した。

「すまないな」
「いえいえ。それから、あの世というのは誤解があるわ。だってお盆に戻って来るご先祖様達は、みんな元気で若々しいお姿をして、きびきびとあの世からやっていらっしゃるに違いないもの」
「なんだそりゃ」

 とすると、なんて言い返し言葉が浮かんだものの、仲村渠はタイミングを失った。爪楊枝を「ふんっ」とやり、ようやく魚の骨が取り払えた。

 味は昔のまま。そして差し歯の間に刺さるこの痛みは、現在のものだ。

 そう仲村渠には思えた。見てみた妻の方はというと、相変わらず器用に魚を食べ、誤って飲み込むこともなかった。

「今日も、どちらかへ行かれる予定?」

 先に食事を終え、次は経済新聞に手を伸ばす仲村渠を妻が目で追う。

「散歩がてら、少し回ってみようと思っている。お前に食わしてやりたいと思っていた美味い喫茶店もあるんだ。調べてみると、他にも結構あるらしいな。琉球ガラスで作るストラップなんてのもあるぞ」
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