神様、俺は妻が心配でならんのです
 女はそう言うと、タロットカード切り始め、集中し一心に何か思っている目でタロットカードをテーブルに置きだした。

 仲村渠は、身慣れぬカード占いの様子を静かに見守った。

 彼が我知らず腿の上に置いた手に拳を作っていると、妻が気遣うように、自身の手を上から重ねてきた。

 彼はハツとして、緊張している自分に気付く。

 急ぎ取り繕い、彼がぎこちない微笑みを返してみせると、妻は相変わらず夢心地みたいに、ふんわりと微笑んできた。

「大丈夫ですよ、あなた」

 それは仲村渠がかけるべきはずであった言葉なのに、妻がそう言った。

「怖いことは、何もありませんからね」

 妻は、まるで子どもをあやすように彼の手を撫でた。

「だから私、お傍を離れたりしませんわ」

 彼女は仲村渠の手を優しく握る。彼は、取り乱してはいけないのだと我が身を叱りつけて「そうか」と、どうにか普通に答えられた。

 変えることの出来ない過去も、二人が微笑みあうことが出来ない今という現在の未来についても、すべて知った上で、妻のためにする――そう彼は決めていた。
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