神様、俺は妻が心配でならんのです
 妻がカメラを鞄にしまいながら「私はまだ若いわよ」と頬を膨らませる。

「あなたったら、ずいぶん後の話しということでおっしゃっているんでしょうね?」
「もちろんだ」

 仲村渠慌てて言い、そして機嫌を取ってすぐ溜息をこぼした。

「女は難しいなぁ」
「ふふ、聞こえていますよ。当然です、だって少しでも長く、若くいたいじゃない」
「美のことか」
「違いますよ」

 妻はきっぱとり言った。

「あなたと、少しでも長く一緒に過ごしたいからですよ。仕事をされている時は、二人の時間は少なかったですからね」

 妻は、可笑しそうに目元を綻ばせていた。

「これからは一緒だと、私、申し上げましたでしょう?」

 記憶が、彼が知っている直前の妻と一瞬、ごちゃまぜになっているのを感じた。

 お仕事お疲れさまでしたと妻に、最後の出勤の帰りを温かく出迎えられた。その時を思い出した仲村渠は、鼻がツンとしたが、涙なんてものは我慢した。
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