神様、俺は妻が心配でならんのです
「うむ――暑いな」

 テレビでは『夏』なんてまだ伝えられていないわけだが、すでに日中の暑さは三十度近くある。じんわりとシャツに熱がこもった。

 店名の記された看板を確認し、二人で細い木材の階段を上った。

 階段を上がると扉が一つあり、開くと、小さな店内の涼しい冷房の風が二人を迎えた。

 円形のテーブル席が三つ、一面の窓ガラスに沿って造られたカウンター席には固定式の丸椅子が十ほどあったが、客は一人しかいない。

 レジカウンターは、扉を入ってすぐの場所に設けられていた。非常に小さな面積に、棚とレジと固定電話が敷き詰められている。

 奥の部屋はカーテンで仕切られており、扉の開閉音に気付いて、一人の中年の女主人がやってきた。彼女は陽気な挨拶を済ませると、メニュー表を早速広げて見せてきた。

「ウチにはあまりメニューがないんだけど、どうされますか?」

 女主人は、少し申し訳なさそうに聞いた。

 確かに、メニューは数える程度だった。カレー、ぜんざい、軽食にサンドイットとホットドックだ。
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