神様、俺は妻が心配でならんのです
「そうねえ」

 妻は、メニュー表を眺めてほんの少しだけ考える。

「小腹が空いている程度だから、アイス珈琲とパンケーキをいただこうかしら。量は結構あったりします?」
「いえ、こぶりですから、軽めでしたらおすすめですよ」
「それなら俺は、ポークのホットドックと、アイスティーで」

 外の景色がよく見渡せる、一面窓ガラスのカウンター席へと向かうことにする。

 木材は古くなっていたものの、窓はきれいに磨き上げられていた。眼下には、古宇利島の美しい海が開けて見える。

 カウンターの中央席には一人の男が座っていたのだが、仲村渠は二つ席を開けて、入口に近い席に妻と二人で腰かけた。

 室内は、冷房の稼働音の他は、女主人が奥の部屋で料理を作り始める物音があるばかりだった。なんとも静かだ。

 妻は早速、窓に向かってカメラを構えていた。

 だが、使い捨てカメラでは、人の視界ほど精密に景色を残すことはできないだろう。そう自分でも分かっていて「思い出に一枚だけ」と言って、一度撮影して終わる。
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