神様、俺は妻が心配でならんのです
「少しお手洗いにいってまいります」

 妻は席を立つと、カーテンの奥にいる女店主に声を掛けた。

 どうやらトイレはキッチンの方に一つあるだけのようだ。二人の「ごめんなさいね」「いいえ、貸していただいてありがとう」というやりとりを仲村渠が聞いたのち、彼女は女主人に迎えられて奥の方へと姿を消してしまった。

 仲村渠は、隣の丸椅子に残った妻のハンドバックをちらりと見た。

 見慣れない鞄だが、当然だろう。彼は、この鞄が妻の手元へ渡った経緯を何も知らない。いつの年代に、彼女のものだったバックなのだろう――。

 彼は妻を待ちながら、ふと、古宇利島が、沖縄本島で神の島としても知名度があったことを思い出した。

(そういえば、この地にユタはいるのだろうか)

 もしくは、ここを出身とするユタか霊媒師が、沖縄本島で活動していることはありうるのだろうか?

『ヒントは、北にあるかもしれません――』

 占い師の女性の言葉が、脳裏をよぎっていく。
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