神様、俺は妻が心配でならんのです
 だが、都合のいい考えだ。仲村渠はすぐ『現実的ではない』と溜息をこぼした。だった何もかも簡単にはいかないことだった。

(あれから一週間、か)

 妻は、彼女の方は大丈夫なのだろうか。

 悩み込んだ仲村渠は、外の景色を眺めていても暇になり、ふと一人で店に居座っていた男へと注意が向いた。

 横顔を見る限り、男はずいぶん若いようだった。浅く白い横顔から察するに、沖縄の人間ではないだろう。落ち着いた目元には、薄らと皺が入っている。

 観察してみて初めて、仲村渠はその男が奇妙な格好をしていることに気付いた。

 鼠色の着流しに、ブルーのカジュアルシャツを両肩にかけているのだ。

 仲村渠が思わずまじまじと見いってしまうと、男の狐のような目が、突然顔ごとこちらを向いた。

「やあ、こんにちは。僕の顔に何かついているかな」

 男は、関東や京都あたりの強い鈍りで、どこか楽しそうに聞いた。仲村渠は驚きつつ、失礼なことをしたと瞬時に悟って、すぐに「すまない」と謝った。
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