神様、俺は妻が心配でならんのです
 男はけらけら笑うと、「別に対した問題はないですわ、気にせんでください」と言って、こう続ける。

「何か、僕に聞きたいことがあるんじゃないかと思って、こちらから話しかけただけですから」

 仲村渠は、妙な言い方をする男だと思った。

 話す感じはどこか掴みどころがなく、まるで、普段着のように着こなしている着流し姿もそうだが、どこか奇妙な印象を受けた。

 妻が戻って来る様子は、まだない。

 男は、仲村渠がキッチンの方を確認する間も、作り笑いのような笑顔を向け続けていた。

 何かしら返事を待っているらしいと感じて、仲村渠は咳払いを一つすると、失礼のない程度に質問をしてみた。

「旅行、ですか?」
「そうですねえ」

 男は仲村渠の言葉に応えるように、彼と同じように鈍りを抑えたような敬語で話す。

「旅行というよりは、飛び込みの仕事で縁がありまして。そのついでに、古い友人を訪ねなければならなくなり、休暇を取って沖縄まで来たのですよ。ああ、でも、美味しい物は食べているし、旅行といえば旅行になりますかねぇ。休暇届けは出していますし」
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