神様、俺は妻が心配でならんのです
(口で言えば簡単な話だが、……いないんだよ)

 仲村渠は、現実を突きつけられたようなショックを覚えた。

 仲村渠は、自分も妻も、そういった能力がまるでないことを知っていた。

 現在、二人が置かれている状況を説明してくれる、もしくは手助けをしてくれる人間を探している。

 見えないモノ達の存在が本当にこの世にあるとしても、仲村渠には、その声や意思を汲み取ることはできないのだから。

 彼は、神や仏といった存在を完全に信じていない訳ではない。

 逆境に立たされた時に、背中を押してくれるように沸き上がった熱意。やんちゃな息子達が危うく寸前のところで危機を逃れて、五体満足のまま立派に成長したことも、そうだ。そのたび妻の実家でのお盆などで『ご先祖様――』という気持ちで、揃って手をしっかりと合わせた。

 手を合わせる、ということが一年を通して、当たり前にある沖縄だから。

 辛くて苦しい時、未来が見えない不安に押し潰されてしまいそうになった時、振り返るといつもそこには、いつも正しい道へと引っ張ってくれた大きな存在があるように、仲村渠は思えてならないのだ。
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