神様、俺は妻が心配でならんのです
「――少しだけ、話を、聞いてくださいませんか?」

 まだ、妻は戻らない。

 仲村渠がこらえきれなくなった感情を吐露する三板に値細い声をこぼすと、男は狐みたいな目でどっと見つめたのち、

「ええですよ」

 と、あのほっとするような訛りで答えてくれた。

 そういうわけで仲村渠は、男に、最近の忙しさについてぽつりぽつりと語り聞かせた。

 自分と妻の身に起こっている不可思議な現象については伏せたまま、パワースポットとして有名な場所へ出掛けたり、願掛けや神頼みをして情報をかき集めたれ、ユタを一生懸命に探し回っているが見つからない悩み――それを、口下手ながら、今であったばかりの着流しの男に、話した。

 どうして自分でも、こんなふうに口から素直に言葉が出るのか分からない。

 男は、仲村渠の話を黙って聞いていた。下手な相槌や社交辞令は述べず、着流しの袖の中に手を行けて、口を閉じていた。

「あなたは俺に『そういう時は助けを求めればいい』と言いました。しかし、それこそ、自分にはやはり縁がないのだろうと最近思えてならないんです。神様は必要な時に、必要なものを用意してくださるのだと、有名な霊能者のコラムを読みました。でも、それなら俺は……」

 俺には必要ないということなのだろうか。

 こんなにも神を、守護神を、先祖の手助けを、今は願っているというのに。

 これほどまで焦燥する気持ちは初めてだった。それなのに、何一つ、解決策を見付けだせないでいるなんて――つらくて、苦しい。
< 61 / 120 >

この作品をシェア

pagetop