神様、俺は妻が心配でならんのです
 そろそろ料理が仕上がり、妻も戻ってくるだろう。そう彼が身構えた時、男が深い溜息をもらした。

「ふうむ。あなたを助けられる人を探すのは、とても難しいでしょう」

 男が独り言のようにぼやき、席を立った。

 仲村渠は密かに落胆を覚えた。すると彼は、半ば言葉の意味を掴みかねている仲村渠に微笑みかけ、懐から一枚の名刺を取り出した。

「僕でお力になれるかどうかは分かりませんが、これをどうぞ。数日は沖縄の知人のもとで世話になっているので、彼の協力があれば、もしかしたら何かと力になれるかもしれません。……まあ、公に仕事をされている訳ではないですから、あの男が話しを聞いてくれるかは、未知数ですが」

 その名刺には、「090」で始まる番号と、「098」で始まる番号が記載されていたが、名前も住所も書かれていなかった。名刺としてはかなり奇妙なものだ。

 その時、妻が戻って来て、なぜか仲村渠はその名刺をズボンのポケットに押し込む形で隠してしまった。すると妻と入れ違いに男が着流しを揺らし、歩きだす。
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