神様、俺は妻が心配でならんのです
「――ふうん。数分、存在しない時間があるんだな。これは珍しい」

 男が歩きながら懐中時計に目を止めて、そう呟いた。

 仲村渠は、思わず男を目で追った。しかし隣に戻って来た妻が「どうしたの?」と訊く間に、男は外に出て行ってしまった。

「何か、気になることでもありました?」
「いや、――なんでもない」

 たびたび、仲村渠と妻の周りで起こる〝存在しないことになっている時間〟について、今であったばかり男が気付いたことに、仲村渠は密かに動揺していた。

 古い友人と電話越しで話をした時も、同様のことが起こっていた。二人がそれに気付くまでには、数回のやりとりが必要だったのだ。

 それを、あの男は見抜いた。

 仲村渠は、それとなく妻や女性店員に尋ねてみた。すると男二人の話しは長話ではなくて、料理もトイレにも時間はかからなかったと、それぞれの女性は答えてきた。

             四

 妻と北部のドライブに出掛けた翌日、仲村渠は運転疲れもあり、外へ赴くことはできなかった。
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