神様、俺は妻が心配でならんのです
 とりあえず、不思議なこともあるのだと思うに留めた。そのまま彼が世話になっているというその友人宅について説明を受け、短く礼を言って、電話を切った。

 現在の時刻を確認すると、書斎に入ってから七分という時間の経過があった。

 足りないのか、足りているのかは不明だった。

 やけに時間の経過が短いような気もするし、妥当なような気もするし……。

 仲村渠は財布と携帯電話、車の鍵を持ってリビングに向かった。

 テレビの前のソファには妻が腰かけていた。ほつれてしまった彼のシャツのボタンを、縫っているところだ。

「あら。どちらかへ出掛けられるのですか?」
「少し仕事の相談事を持ち掛けられてな。できるだけ早く帰るようにする」
「うふふ、あなたは慕われていますからねぇ。しようがないでしょう」

 職場から彼の席がなくなって、もう長いことが経っている。けれど、彼は妻にあえてそれは言わないまま微笑み「そうだな」とだけ答えて、家を出た。
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