神様、俺は妻が心配でならんのです
 電話で教えてもらったその家は、南部の山中にあった。

 てっきり北部にあるものだとかってに思い込んでいたから、電話で住所を聞いた時、それも仲村渠のフットワークを軽くした理由の一つだ。

(――友人の家に、近いな)

 妻がああなってから一週間と少し、顔さえも見ていないが。

 下の道路から見上げると、南部の緑の山々は雲の影を映していた。そこを車で登り始めてしばらく、道幅は狭く、雑草が生い茂るようになる。

 途中、道が開ける場所があり、そこから見降ろせる町と海は素晴らしい眺めであった。

 教えられた道順に車を進めると、切り開かれた山の中腹に出た。

 所々に部落の住宅があった。緑の土地に埋もれそうな古い民家や、細い道の曲がり角にある小さなスーパーを通り過ぎ、仲村渠は山道をさらに奥へと進んだ。

 しばらくすると、教えられていた『電工』という小さな古い看板を見つけた。

 仲村渠はその看板に従って、道路脇の砂利道に車を乗り入れる。
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