神様、俺は妻が心配でならんのです
 とりあえずは、暇があるからといって池を見に行くのはよそう、と仲村渠はミムラの話を教訓のごとく思った。彼の話を聞くに、池には何かしら風変わりで癖のある生物が他にも住みついていそうだ。

 部屋の中は、風通りがよく過ごしやすかった。

 ミムラが冷茶を取りに戻り、仲村渠のテーブルを挟んだ向かいに腰を落ち着けた。

 彼はテーブルに肘を置くと、開いているのか開いていないのか不明な狐目で、仲村渠をじっと眺めてくる。

(なんだろうなぁ……)

 落ち着かぬ他人の家であるし、面構えの怪しい男には無言で意味もない視線を送られ続けているし、仲村渠は居心地が悪かった。

 いったい何なのだろう。そう思って視線をそらしていたのだが、ふと、ミムラが自分の顔ではなく、頭の少し上をぼんやり眺めていることに気付く。

「あなたは――」

 不思議に思って、質問しようとした時だった。

 つの足音が近づいてきて、仲村渠はハッとした。

 二人は家主の気配を感じて、ほぼ同時に廊下の方へと目を向ける。

 すると、黒い煤のような跡が残るTシャツに、ブルーの作業用ズボンを履いた体躯の細い男がぬっと現れた。部屋にいる二人をそれぞれ見比べて、元々の造りらしい仏頂面をさらに顰めた。

 筋肉質っぽくもあるが、身体は一見した際に『華奢』という言葉が浮かびそうな感じで、全体的に引き締まってもいる。肌は少し焼けていて、切れ長の目は眼光が鋭く、目や口許に刻まれる薄い皺は五十代くらいか。

「あなたが、客人か」
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