神様、俺は妻が心配でならんのです
 ハッキリとした低い声が問い、仲村渠は遅れて自己紹介した。

 話し方に鈍りのない彼は「東風平といいます」と短く言って、ミムラを押しやるように彼の隣へと腰を下ろした。

 東風平は胡坐をかきつつも、背筋は伸びていた。

「出迎えることができず、すまなかった。仕事が少し長引いてしまったものですから」

 腰を落ち着けるや否や、彼は腕を組んで仲村渠を見据える。

「いえ、こちらこそお時間を取らせてしまって、申し訳ございませんでした。ミムラさんに『すぐ来てよい』という言葉を有難く受け取ってしまい……」
「いえ、それで構いません。ちょうど時間が空きましたから」

 仲村渠が戸惑いつつ彼の隣へ視線を移動させると、東風平は「ああ」と言って、隣の男を顰め面で見た。

「彼のことは気になさらず。初対面で本名を名乗らない、怪しげで生意気な若造ですので」
「うわぁ、友人に対してそらぁひどい扱いやないか」

 ミムラがぐずるみたいに言ったが、東風平は相手にしなかった。彼はその辺りに目をやってタオルを見つけると、額に浮かぶ汗を拭い、改めて仲村渠と向かい合った。
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