神様、俺は妻が心配でならんのです
 歳のせいか、新しい恋人が欲しいとは思わなかった。

 もとより、仲村渠の毎日は仕事ばかりで女気のない男ではあった。

 告白を受けて付き合い、同棲して、結婚をしたのも、妻が最初で最後の女性だった。

 一人の生活は、仲村渠の性に合っていた。

 妻と二人で住んでいた頃と何も変わらない暮らし振りであると気付かされた時、彼女自身の生活がなかったのではないかと感じて、ある意味で衝撃を覚えた。

 いつでも妻は彼の後ろをついてきたし、自分から何かを言ったことがあったのか、探し出すことも難しい。

 本当に結婚してよかったのだろうかと、愛や恋について関心なく育った自分を仲村渠は考え始めることになる。

 そうしているうちに時が流れ、仲村渠の家に一本の電話がかかってきた。

 それは早朝のことだった。相手は一番目の息子で、いったいどうやって新しい番号を調べたのだろうかと仲村渠が不審に思う間に、息子は手短に用件を告げてきた。

『俺達は親父を許したことはない。けれど、俺達にも今、大きな息子や娘がいる――母さんは末期癌で、治療代がいるんだ』
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