神様、俺は妻が心配でならんのです
 用件は、金の工面だった。

 仲村渠はいてもたってもいられなくなった。必要な金額を聞き出し、すぐに送金した。すっかり心は離れていたと思っていたのに、妻が心配でたまらない自分に気づかされた。

 仲村渠は妻に会わせてくれと頼んだが、長男はものの見事に一蹴した。

 何度連絡をとっても、同様の意見に関しては受け付けないと断られ、すぐに電話を切られる始末だ。

 誰に似たんだと仲村渠は苛立った。

 けれど、母親を愛して、必死に守ろうとする息子達を責めることは、やはりできなかったのも事実だ。

(俺は、――知らず知らずのうちに、ひどいことをしてきたのだろう)

 すっかり年を取ってしまうまで、自分についてくることで妻の心が満たされていると信じて疑わなかったのだ、と。

 仲村渠はそう、後悔し続けていた。

 妻の癌は末期ではあったが、まだ余命は残されていた。何度か入院生活を送らねばならなかったが、頭もしっかりとしていて、定期的な通院で済んでいる。

 肝臓癌は転移もほとんどないから、よく付き合っていけば、長く生きる者だっている。

 仲村渠は、数年前から食事療法はすでに行っていたという妻のことを、毎晩想った。

 けれど――。

『もう、だめかもしれない』

 そう連絡を受けたのが、今から一ヶ月前のことだ。
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