神様、俺は妻が心配でならんのです
 末の息子が、泣きながら仲村渠に連絡を入れてきた。

 いい歳をした大人の男が泣くんじゃないと、仲村渠は叱った。動揺と弱気を押し殺して、彼は、末の子から慎重に話しを聞き出した。

 末の息子は、涙を呑みながら一生懸命に話してくれた。

 吐血で入院することは初めてではないが、母さんがどんどん弱っていくのが分かるのだ、と。血は臓器の組織から滲み出ていて、もう、どうしようもないと医者は言っていた。もう、そんなに長くはないだろう。昏睡に陥ることが多く、時々孫のことや、僕らのことまで分からなくなってしまう時があるんだよ……と。

 仲村渠は、自分にはもう何もできないんだ、ということが分かった。

 どうにか病院の場所は聞き出せたが、肝臓移植も不可能、ほとんど病院のベッドの上で眠りに落ちて、話せる時間もない事実が彼の行動を抑えた。

 長男が彼を会わせたくない理由も、今ではわからなくはなくなってしまっていたから、赴いてやることもできず、仲村渠は身動きできない状況だった。

 何かできることはないかと探し回っていた時、ちょうど古い友人を思い出した。

 今は仕事から引退して隠居生活を送っている、城間という男だ。
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