神様、俺は妻が心配でならんのです
 会えない。でも、俺は会いたい――……。

 そんな迷いと葛藤が、彼を一層苦しめていった。

 何も進展がないまま半月が過ぎ去った。

 そして、事件は起こる。

 その日は、日差しが暑くも感じる晴天だった。彼は寝室の窓から外を眺めていたのが、当然のように気持ちは少しも晴れてくれなかった。

 寝室から出てすぐ、彼は一つの違和感に気付いた。

 閉め切っていたはずの一階から、風の流れを肌で感じ取った。

 確認してみると、なぜか客間も、書斎も、窓が開かれて空気の入れ替えがされている。

 不審がりながら歩き慣れた廊下を慎重に進んだ。すると明るいリビングに足を踏みいれた瞬間、珈琲の香りが鼻をついた。

「あら、あなた、おはようございます。今日は珍しく遅い起床ですのねぇ」

 キッチンには、エプロンをつけた妻がいた。

「あ……え、お、おまっ……」

 別居となる直前まで、彼と過ごしていたはずの妻が、そこにいたのである。

 口をあんぐりと開けて見つめる仲村渠を、妻は「どうしたの」と不思議そうに見つめ返した。
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