神様、俺は妻が心配でならんのです
 目の前に現れた中年の女性が、彼の記憶の中にいる妻の印象と少し異なっていたのは、彼女が出会った頃のような幸福そうな顔で笑うところだ。別居した頃より、少し歳も若いように思えた。

「あらあら、どうされたんですか? さ、珈琲が冷めてしまいますよ」

 仲村渠は促されるまま、パジャマ姿で珈琲を飲み、キッチンで楽しく朝食作りに精を出す妻をまじまじと見つめた。

 影はある。身体は生身のようだが、この現象はいったい何だ?

 出された朝食は美味かった。彼の寝癖に触れてくる妻の手も、暖かい。

(俺の方がおかしくなってしまったんだろうか)

 そう仲村渠は悩んだが、いや、そんなはずはないと思い直した。彼女は、病院で入院中のはずなのである。

 そこでテーブルに用意されていた新聞を手に取って、今日の日付を確認しようとしたところで、仲村渠は一つの異変に気付いた。

 新聞、雑誌、テレビなど、日付を探すことができなかったのだ。

 不思議と、日付部分が空白となっている。スマホの待ち受け画面にも、ない。
< 86 / 120 >

この作品をシェア

pagetop